材料


漆をくろめ(黒目)る-材料について(2)

漆くろめ
漆くろめ1

くろめ始めたばかりの生漆

 

採取したばかりの漆は水分を多く含んでおり、この樹液のままの状態を生漆(きうるし)と呼びます。通常、漆はこのままでは使いません。夏の天日の下でかき混ぜながら水分を数%程度にまで下げるのです。

この作業を、漆をくろめる(黒目る)と呼びます。意外かもしれませんが、塗料としての漆は水分をほとんど含んでいないのです。

生漆はウルシノキの樹皮に傷をつけ、滲み出た樹液を集めたものです。天然の野山で採取するため、木屑や木の葉のかけらなどの塵が入っていたりと、塗料として使うには少々手を加えなければなりません。

しかし、一番厄介なのは目に見えないモノ ー微生物ー です。生漆は水分も多く、微生物の栄養となる物質も多く含んでいます。そのため生漆のまま長期間保存しておくと腐ってしまうことがあります。

微生物の生育を抑え、また漆の性質を整えるために”くろめ(黒目)”を行います。


くろめ2

天日の下で漆をくろめる

くろめの方法は地域や職人により異なりますが、漆 海棠では”船”と呼ばれる広い容器に漆を広げ、ゆっくりとかき混ぜながら水分を蒸発させる方法で行っています。広い面積に広げることで、大量の漆を一度にくろめることができるのが特徴です。

生漆は、漆の成分と水が乳化しているため白く濁っています。くろめが進んで水分が蒸発するにつれ、本来の漆の色が出てきます。色のグラデーションは、水分量の違う部分です。

夏の炎天下でくろめを進めると、漆が熱をおびてきます。

熱くなりすぎると漆が固まらなくなってしまうため注意が必要です。

逆にこの性質を利用して、乾きの遅い漆を作ることもできます。


IMG_0528

水分が蒸発し本来の漆の色に

だんだんと水分が蒸発し、黒糖色になってきました。

もう少しでくろめが完了です。

この時点では50℃近くに達しています。

あまり長い時間高温にしておくと、劣化の原因となってしまいます。


IMG_0543

くろめた漆を船から取り出す。麻布で濾過。

くろめが終わり、船から 漆を取り出します。

生漆には塵が混じっているので、粗い麻布で濾過します。

生漆の状態で桶いっぱいだったのが、くろめた後にはこんなに少なくなりました。

生漆は水分を20〜30%程度含んでいるので、その分減ってしまったのですね。

IMG_0541

くろめ後。元は樽いっぱいの生漆が入っていた

木胎 -胎について(1)

ろくろで木地挽き

胎(参照:漆芸用語集)の作り方は様々ありますが、木胎は漆工芸で最も一般的な胎と言えるでしょう。

木は古来から日本の建築や家具、食器や小物、あるいは燃料とあらゆる場面で使用されてきました。漆工芸においても木が最も一般的な素材であるのは当然のことかもしれません。

漆器で木が多く使われる理由は幾つかあります。

  • 日本では容易に入手できる
  • 加工が比較的容易
  • 軽くて丈夫
  • 熱伝導性が低く、熱いものを入れても手や唇に伝わりにくい
  • 風合いが良い、ぬくもりを感じる

こうした優れた機能がある一方、白木のままでは食品が染み込みカビが生えやすいという欠点もあります。その欠点を補う上で、漆は木胎と非常に相性が良い塗料です。

漆は一度固まると水を通さず、また非常に腐りにくいという性質があります。9000年前の縄文時代の遺跡から漆塗りのくしが出土するのも、その性質があるからこそと言えます。

世界で最も木の文化が発達していると言っても過言ではない日本。その日本で漆の文化がこれほどまでに発展したのも必然と言えるかもしれません。

材木の乾燥-材料について(1)

乾燥中の材木1

乾燥中の材木

材木が使えるようになるまで数年かかる

〜生木は歪む〜

漆器の最も一般的な(器などを形作る部分)の材料は木です。

木は、切り倒したばかりの生木の状態ではかなりの水分を含んでいます。水分は次第に蒸発し、その過程で材木が歪みます。生木をろくろなどで整形しても、しばらく置いておくと歪んでしまい狙った通りの形の胎になりません。


乾燥中の材木2

材木の木口に和紙を貼って乾燥させる

材木を乾燥させる

整形後に歪んでしまわないように、材木は風通しの良い日陰で2〜3年乾燥させます。木は木目の具合によって歪む方向が異なるため、木目の揃っていない広葉樹はヒビが入ってしまうことがよくあります。ヒビ割れを防ぐため、木口にでんぷん糊で和紙を貼っておきます。

紙では破れてしまうように感じますが、これが伝統的なヒビ割れの防ぎ方です。


粗削りした材木

粗削りした材木

粗く整形してからもう一度乾燥

材木を乾燥させても安心はできません。大きな塊の材木は、場所によって歪みが異なります。そのため乾燥後でも、一部を削ると新たな動きが始まります。非常にゆっくりとした動きですが、1年、2年と経つうちに目で見てわかるくらいになることもあります。

目的の形に粗削りし、歪みが止まるまでまた数年寝かせます。時間のかかる作業ですが、材料から丁寧に作り込むことを大切にしています。

黒漆は特殊な作り方をします

黒漆

漆器には朱、黄、緑、最近では紫や青など様々な色が使われています。その色はどうやって出すのでしょうか。

皆様ご想像の通り、顔料によって色付しています。精製した透漆(すきうるし 漆芸用語集参照)に、赤色系統なら古来より辰砂(しんしゃ)や弁柄(べんがら)といった顔料、緑なら酸化クロム(Ⅲ)などを使い、配合割合などを変えて目指す色を作り込みます。透漆と顔料があれば、いつでも色漆を調合できます。

しかし、黒だけは違います。黒漆は、特別なタイミングでしか作れず、一手間かかります。

以前の記事《漆をくろめる》で、生漆から漆を精製する工程を書きました。黒漆はこの「くろめ」の時に作るのです。正確には「くろめ」の前、生漆の状態の時に作るといったほうが良いのでしょう。

黒漆は、生漆に少量の鉄粉を混ぜて作ります。といっても、鉄粉を顔料のように使うのではありません。鉄粉は後に濾過して除去してしまうのです。

生漆に鉄粉を混ぜて10日間程毎日攪拌しながら置いておきます。すると鉄粉の一部が鉄イオンとなり、ウルシオール(漆芸用語集参照)と錯体を形成することによって全ての可視光を吸収する深い「漆黒」が出来上がるのです。。

生漆はちょうどミルクコーヒーのような色をしていますが、鉄粉を混ぜて数日経つと泡が立ち始め、グレーに変わってきます。色の変化がなくなった頃に漆をくろめれば黒漆の完成です。

生漆は保存が効かないこと、鉄粉を混ぜて毎日攪拌し、くろめを行うという作業が大変なことから、黒漆はそれほど頻繁に作ることができません。失敗すれば相当量の漆を失ってしまいます。

年に一度漆をくろめる時にしか作れない黒漆。

基本的な色でありながら最も奥が深い色です。

漆をくろめる 1

漆くろめ1

くろめ始めたばかりの生漆

 

採取したばかりの漆は水分を多く含んでおり、その状態を生漆(きうるし)と呼びます。通常漆はこのままでは使いません。

夏の天日の下でかき混ぜながら水分を数%程度にまで下げるのです。この作業を漆を”くろめる”と呼びます。意外かもしれませんが、塗料としての漆は水分をほとんど含んでいないのです。

生漆はウルシノキの樹皮に傷をつけ、滲み出た樹液を集めたものです。天然の野山で採取するため、木屑や木の葉のかけらなどの塵が入っていたりと、塗料として使うには少々手を加えなければなりません。

しかし、一番厄介なのは目に見えないモノ ー微生物ー です。生漆は水分も多く、微生物の栄養となる物質も多く含んでいます。そのため生漆のまま長期間保存しておくと徐々に腐ってしまいます。

微生物の生育を抑え、また漆の性質を整えるために”くろめ”を行います。


くろめ2

天日の下で漆をくろめる

”船”と呼ばれる広い容器に漆を広げ、ゆっくりとかき混ぜながら水分を蒸発させます。

生漆は、漆の成分と水が乳化しているため白く濁っていますが、水分が蒸発するにつれ本来の漆の色が出てきます。色のグラデーションは、水分量の違う部分です。

夏の炎天下でくろめを進めると、漆が熱をおびてきます。

熱くなりすぎると漆が固まらなくなってしまうため注意が必要です。

逆にこの性質を利用して、乾きの遅い漆を作ることもできます。


IMG_0528

水分が蒸発し本来の漆の色に

だんだんと水分が蒸発し、黒糖色になってきました。

もう少しでくろめが完了です。

この時点では50℃近くに達しています。

あまり長い時間高温にしておくと、劣化の原因となってしまいます。


IMG_0543

くろめた漆を船から取り出す。麻布で濾過。

くろめが終わり、船から 漆を取り出します。

生漆には塵が混じっているので、粗い麻布で濾過します。

生漆の状態で桶いっぱいだったのが、くろめた後にはこんなに少なくなりました。

生漆は水分を20〜30%程度含んでいるので、その分減ってしまったのですね。

IMG_0541

くろめ後。元は樽いっぱいの生漆が入っていた